■19世紀の近代的唯物論の特徴——Bayertz 2007
Kurt Bayertz, “Was ist moderner Materialismus?” in Kurt Bayertz, Myriam Gerhard, and Walter Jaeschke (eds.), Weltanschauung, Philosophie und Naturwissenschaft im 19. Jahrhundert, Band 1: Der Materialismus-Streit (Hamburg: Felix Meiner, 2007), 50–70.
唯物論は,大まかに言えば実在論的であり,また精神や意識に対する物質の優越性を認め,さらに倫理的には現世での幸福を肯定する此岸性を持つ.実はこの三つの要素のあいだには必然的な関係はなく,「唯物論」なるものを明瞭に規定することは困難である.この論考では唯物論を古典的唯物論と近代的唯物論に分けた上で,フォークト,モレショット,ビュヒナーらに代表される19世紀の近代的唯物論に共通して見られる特徴をまとめる.
古典的な唯物論は自然に依拠していたが,近代的唯物論は自然のかわりに自然科学に依拠し(これこそビュヒナーが強調したことであった),それを哲学的に一般化しようとした.唯物論と自然科学には類似点もあるが,前者は実在論的原理であるのに対し,後者は方法論的原理であるので,唯物論は自然科学を超えたことを言っていることに注意しなければならない.さて,科学は変化するものなので,そのたびごとに唯物論も変化することになってしまう.これを避けるには,ひとつには最新の流行をつねに追いかけること(たとえばダーウィニズムへの転換),もうひとつは自然科学を自然に対するひとつの態度あるいは方法と取ることだ.だが後者は,もともとの形而上学的な動機を失い,統一的な世界観を提供できなくなる.自然科学に依拠することで,われわれの主観的な領域は居場所を持たなくなるのだ.たとえば私にとって死が何を意味するのか,唯物論は答えない.
近代的唯物論は何よりもまず理論哲学の枠に入るのであって,倫理的な含意は二次的とみなされていた(これは古代の唯物論とは反対である)が,それでも近代的唯物論には実践的側面があった.それは何よりも,個人的な領域ではなく人間の生活条件(Lebensbedingungen)を改善するという意味での実践であった.幸福を得るためには,内的な条件ではなく外的な条件を改善するべきである.それゆえ近代的唯物論は政治的含意を持った.この点は宗教および教会批判も同様である.そして生活条件の改善につながるのは技術的達成であると主張した近代的唯物論は,(安易に響くであろうが)科学万能主義あるいは技術万能主義でもあった.