■ボルツマンぜんぶ読む (1)——Darrigol 2018
Olivier Darrigol, Atoms, Mechanics, and Probability: Ludwig Boltzmann’s Statistico-Mechanical Writings—An Exegesis (Oxford: University Press, 2018), Preface.
物理学者であればボルツマンの名を知らない者はないだろうし,科学史家や哲学者にとってもボルツマンはよく知られた対象であろう.ボルツマンの執筆した論文・著作をすべて詳細に検討した上でならば,「原子論の擁護者」などといった単純なイメージは維持できない.De Courtenay は博士論文(Nadine de Courtenay, Science et philosophie chez Ludwig Boltzmann: La liberté des images par les signes. Thèse de doctorat, Université de Paris 4, 1999)の中で,晩年のボルツマンの認識論的著作と物理学的な著作のあいだの共鳴関係を見出した.ボルツマンの認識論的な立場というのは像理論であり,そこで彼は厳格さ,明瞭さ,そして像の構成にあたっての自由度を強調したという.また,理論構築にあたっては,進化論的な性格を強調した.こうした認識論的背景のもとに,ボルツマンの残した統計力学的な著作をすべて時系列順に検討するのが本書である.
Written on April 5, 2019.