■相対論ルネサンスにおける二つのアプローチ——Kaiser 1998
David Kaiser, “A \psi is just a \psi? Pedagogy, Practice, and the Reconstitution of General Relativity,” Studies in History and Philosophy of Modern Physics, 29 (1998): 321–338.
1960年代,ウィルが「相対性理論のルネサンス」と呼んだ事態がアメリカの物理学界に生じた.だが,そこで「一般相対論」の意味するところは,実のところかなり変化していた.それはベルクマンの教科書 Introduction to the Theory of Relativity (1942) と,ミスナー・ソーン・ホイーラーの教科書 Graviation (1973) を比較すれば明らかである.一般相対論には幾何学的アプローチ(アインシュタイン,ベルクマン)と場の理論にもとづくアプローチ(ファインマン,コールマン)があった.両者の差異は単なる概念や受容というよりも,物理学者が使う言葉と実践,すなわち計算テクニックの問題であった.二つのアプローチは存在論的にも,計算の手法としても,教育の観点からも,社会的なコミュニティ形成の視点からも,対照的だったのである.講義ノート,教科書,さらには大学院生に与えられた問題の変遷はこうした差異を際立たせるのに適している.ファインマンが場の理論によるアプローチを提唱したのは,1960年代の学生たちがそれに慣れているという教育的理由によるところが大であった.そしてそこでは,重力はもはや他の多くの種類の場のなかのひとつに過ぎない.ウォーリックはケンブリッジ大学におけるきわめてローカルな数学者コミュニティの形成を扱ったが,相対論ルネサンスの場合には,地理的により広域なコミュニティ形成が見られる.その際には,教科書や物理学者の移動が大きな役割を果たした.場の理論にもとづく相対論へのアプローチの発展は,学生の教育や新しい計算テクニックという点で,1942年から1975年にかけての一般相対論の再構成を示している.