■ファインマン・ダイアグラムの拡散 (8)——Kaiser 2005

David Kaiser, Drawing Theories Apart: The Dispersion of Feynman Diagrams in Postwar Physics (Chicago: The University of Chicago Press, 2005), Ch. 8.

本章で示されるのは,その意味や用法におけるきわめて柔軟な可変性のゆえに,ファインマン・ダイアグラムは新しい領域へと適用されるようになったということだ(ラトゥールの「不変の可動物」と比較せよ).それは強い相互作用が支配する素粒子物理学の領域で,きわめて生産的な発見法としての役割を果たした.具体的な相互作用に触れることなく,分散関係を計算することで粒子の散乱を考察する際に,素粒子物理学者はファインマン・ダイアグラムを改変した上で使った.交差対称性やマンデルスタム表現も,ダイアグラムをもとにした考察から提案された.

チューにとって,ダイアグラムこそが「ブートストラップ」の役割を果たす新しいアイディアの源泉であり,このツールさえあれば,ひとまずは系統立った理論はなくてもすませられた.ポロロジーによる散乱振幅の計算手法を確立したチューは,ダイアグラムの再解釈,交差対称性,マンデルスタム表現に関する洞察を足がかりにして,粒子のあいだには「素粒子」や「複合粒子」といった区別などはないという「核民主主義」のアイディアに至った.興味深い(そしてダイソンのかつての意図からみれば皮肉な)ことに,チューは,場の量子論をS行列理論で置き換えるというプログラムを提唱し,ダイアグラムと場の量子論とのつながりを断とうとした.

「ファインマン・ダイアグラムの拡散」関連記事

Written on February 14, 2019.