■心理学の教科書の正確性——Steuer and Ham II 2008

Faye B. Steuer and K. Whitfield Ham, II, “Psychology Textbooks: Examining Their Accuracy,” Teaching of Psychology, 35 (2008): 160–168.

教科書が将来世代たる学生の訓練のために重要であることは疑いえない.また,商業的にも無視できない規模のマーケットを持っている.だが一方で,教科書はしばしば単純さを優先して正確性を犠牲にしているなどと批判される.講師が教科書を選定する際にはさまざまな観点から評価することが必要となるが,これは時間の問題から実現することが難しい.このため,出版社からの情報や教科書そのものに対する検討,また書評などがあるが,ここでは心理学の教科書をサンプリングし,参照されている文献と比較してその正確性を調べた.教科書の誤りは,その著者が「帰納的」(一次文献に基づいてストーリーを組み立てる方法)ではなく「演繹的」(ストーリーを先に作ってあとからそれを支持する文献を参照する方法)なアプローチを取る場合により多く発生し,後者の場合には,参照されている文献が内容にまったく関係ない場合もしばしばある.だが,著者は頻繁な改訂(心理学のコースの教科書の場合,おおむね3年ごと)にかかる時間の制約上,「演繹的」アプローチを取るように圧力をかけられることにも留意すべきである.この論文で示した正確性を調べる方法は,限られた時間で教科書を選定しなくてはならない講師にとっても重要だろう.また,教科書の正確性を調べることは,当該分野(心理学)のためにもなる.

Written on January 23, 2019.