■ゾンマーフェルトの『原子構造とスペクトル線』——Eckert 2013

Michael Eckert, “Sommerfeld’s Atombau und Spektrallinien,” Research and Pedagogy: A History of Quantum Physics Through its Textbooks, ed. M. Badino and J. Navarro (Berlin: Edition Open Access, 2013), Ch. 6.

量子論形成期における最前線の研究と教科書のあいだの相互作用を調べた論集の一論考.ゾンマーフェルト『原子構造とスペクトル線』の初版(1919年)は一般向けの本として書かれたが,第四版が出版される(1924年)までに大幅に内容が増補され,また原子物理学者の便覧としての性格を備えるようになった.これは,『原子構造』という教科書それ自体が,研究状況に応じた変化を受けていることを示す.『原子構造』は多くの物理学者にとって量子論への導入としての役割を果たした.1929年には『波動力学補巻』を第2巻として付け加えて,30年代にはこの第2巻も内容が増補された.結果的に,『原子構造』は20年以上にもわたって改訂が続けられたが,これはゾンマーフェルトの弟子たちとの協働の成果でもあった.『原子構造』の執筆と改訂のプロセスは,それが研究と教育のツールであったことを示している.さらに,量子力学が成立した後になっても,『原子構造』は価値を失わず,量子物理学者の参照点として機能し続けた.

Written on March 7, 2018.