■もうひとりの物理学者:新版旧版比較——Jungnickel and McCormmach, The Second Physicist (2017)

C. Jungnickel and R. McCormmach, The Second Physicist: On the History of Theoretical Physics in Germany, Springer, c2017.

19世紀のドイツ(語圏)における「理論物理学」の知的・制度的確立を扱ったJungnickelとMcCormmachの The Intellectual Mastery of Nature: Theoretical Physics from Ohm to Einstein, 2 vols. (Chicago: The University of Chicago Press, 1986) の改訂・縮約版が本書である.本文の目次は以下の通りである.

  1. ドイツにおける理論物理学の特徴付けに向けて(1)
  2. 大学における物理学の確立(51)
  3. 1830年以前とその前後のドイツの物理学者たち(73)
  4. 新しい物理学の奨励:ゲッティンゲンでの地磁気研究(113)
  5. 大学での物理教育の改革:1830年代から1840年代のゼミナールと実験室の発展
  6. 1840年代の『ポッゲンドルフ年報』における物理学研究(137)
  7. 連関法則:1840年代のキャリア形成と理論(153)
  8. 数学者と物理学者(191)
  9. キルヒホッフ,クラウジウス,ヴェーバーと連関(205)
  10. 1870年前後の『年報』をはじめとする学術誌における物理学研究(241)
  11. 理論物理学のポジション(257)
  12. 理論物理学の方法(289)
  13. 理論物理学正教授職(315)
  14. 『年報』と『進歩』における物理学研究(335)
  15. 基礎と連関(349)
  16. 結語.いくつかの観察(397)

この他に序文,文献(抄),索引が付せられている.序文では,改訂版では新しい情報を付け加えることはせず,もっぱら既存の題材を整理することと,近年の研究成果の反映を行ったことが述べられている.

この改訂版の総ページ数はxxi+460頁(全16章)となっている.これは,旧版のxxvi + 350 + xviii + 435頁(全27章)に比べると,およそ6割ほどとなっており,内容が大幅に削除されていることを示唆する.目次を比較すると,旧版ではベルリン,ミュンヘン,ハイデルベルクなど,各都市ごとの動向について章立てされていたのが,この改訂版ではより一般的な見出しのもとにまとめられていることがわかる(たとえば理論物理学の教授職について論じた第13章など).また,旧版ではヴィーンの動向(とくにボルツマン)についても章立てして詳しく論じられていたのが,この改訂版では落とされているように見える.電気研究と力学研究については,理論物理学の方法(第12章)や基礎をめぐる探究(第15章)にまとめられているようである.

全体としては,リーダブルになるように,あまりにも詳細な情報は省略した上で,より大局的な視点を提供する方向にシフトしたという印象を受ける.実際,改訂版では新たに第1章と第16章が書き下ろされており,そこでは19世紀ドイツ(語圏)における理論物理学の特徴付けと,その成立に至る大きな流れを俯瞰することが目指されている.

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Written on September 5, 2017.