■Gray on Poincaré's quantum theory --- Henri Poincaré (2013)
Jeremy Gray, Henri Poincaré: A Scientific Biography (Princeton: Princeton University Press, 2013)
ポワンカレに関する初の包括的なモノグラフから,量子論に関係する部分をつまみ読み.
彼の数理物理学に対するアプローチは現象論的で,非常に狭い線形な領域を調べることで,線形な方程式から,機会があれば線形偏微分方程式を導くというものだった.しかし,この路線は,量子論の登場によって放棄されることになった(23).
1911年10月30日から11月3日にかけてブリュッセルで開かれたソルヴェイ会議に招かれ,熱心に量子論について議論した.すでに大御所と見なされていたとはいえ,この点に関してはプランクの賞賛が残っている.量子化された共鳴子の振舞いと,それらの相互作用のメカニズムについて考察し,会議から帰って一ヶ月後には,プランクの放射則を導くためには量子が必要であることを証明する6頁の論文を発表した.放射の問題については,1912年4月11日にパリ物理学会の会合でも報告を行ったが,その中では当時の実験に触れながら,原子の存在と,原子の構造について論じている.また,同年5月11日にロンドンでも量子の問題について講演を行い,ソルヴェイ会議の結果を報告するとともに,量子論的な非連続性が必要であることを強調し,さらに「時間の原子」が存在する可能性にも言及した.ポワンカレの論文はよく引用され,影響力が大きいものであった.ポワンカレの死後,1913年にランジュヴァンが評したところでは,ポワンカレの論考は,自然法則と微積分が不可分だと信じられていた時代の終わりを告げるものだった(150–152;see also 378–381).