■金山「武谷三男論」(2016)

金山浩司「武谷三男論:科学主義の淵源」金山修編『昭和後期の科学思想史』(勁草書房,2016年),第1章.

本論文は,三段階論で知られる武谷三男が,長い間にわたって,さまざまな論題についてさまざまに書き連ねてきた論考を貫く一本の糸を探り出す試論である.その糸とは科学主義である.科学者は(正しく用いれば)科学を,自然界のみならず,社会・政治をも包括せしめるようにできる.存在(Sein)の領域と,価値(Sollen)の領域に区別はない.このような見解は,実は章題に続くエピグラフに明らかである.

自然科学は最も有効な最も実力ある最も進歩せる学問である事は万人が認めるところである.かかる優れた学問を正しくつかみ正しく押し進めている科学者は最も能力ある人々でありこれら人々の考え方は必ずや一般人を導くものでなければならぬ.(武谷三男「革命期における思惟の基準」『科学と技術 武谷三男著作集4』(勁草書房,1969年[1946年]),12頁)

このような武谷の見方が一面的に過ぎると批判することは簡単である.しかし真に問題なのは,武谷の立論が戦後にきわめて大きな影響力を誇ったという事実である.そのプロセスを解明しないことには,今後同じようなことが繰り返されるであろう.

Written on April 30, 2017.